がゐるんだらう!
お秋 誰も居やあしないよ。
弟 嘘言つてら。(見物席を指して)ゐるんだらう。その辺にまだ誰かゐるんだらう。
お秋 (見物席を見て微笑)誰もゐやしないよ。
弟 さうかい。俺にはまだ居る様な気がするんだけど。――俺にはしよつちうそんな気がするんだよ。誰も彼もが、姉さんを掴まへさうな気がするんだ。姉さんにさわりさうな気がするんだ。姉さんを、さらつて行きさうな気がするんだ。――(見物席を指して)その辺に沢山、そんな男がゐる様な気がするんだ。
お秋 (再び見物席を見て微笑)何を言つてゐるんだよ。
弟 姉さんは、いろんな匂ひがするよ。恐ろしく沢山な匂ひがするよ。――いろんな匂ひがするよ。
お秋 馬鹿だねえ。そんな事言つてゐないで、早く寝たらいゝ。
弟 しかし、来年になつたら――畜生どもに――。さうなつたら姉さんは、あの人と一緒になる。
お秋 (二階をチラリと見て)なにがさ?
弟 白ばつくれたつて俺は知つてる。阪井さんはメツタにやつて来ない。しかし、姉さんは待つてゐるんだ。知つてゐるよ。――さうなつたら俺は、阪井さんを兄さんと言ふよ。兄さんと言ふよ。
お秋 (目の見えぬ弟を淋しさう
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