や、来るとこは、此処より外に無いぢやねえか。よ、そんな意地の悪いことを言はないで、チヨイとでいゝから逢はしてくれよ。
お秋 あんたもくどいのね。居ないものは何と言つたつて居る筈が無いわ。――よしんば、居るにしたつて、あんたがそんなに初ちやんの尻を追廻すことなんぞありはしないぢや無いの。
杉山 わからねえ奴だなあ。俺が彼奴を捜すなあ捜す訳があつての事だ。よし、そんな事を言やあ、初子が俺の前に姿を現はすまで、二階でお邪魔をするぜ。
お秋 えゝ、えゝ、さうしてりやいゝわ。
杉山 後で引退《ひきさが》つてくれつちつたつて俺は知らんよ。いいな。
お秋 (返事をせず)(杉山再び二階に上る)
阪井 どうしたんだよ。今のは?
お秋 なあに、例のお初ちやんさ、あの人を追廻してゐる人なの。
阪井 だつてお前、お初ちやんは、あん時チヤンと話がきまつて、何とか言つた、あの――。
お秋 町田さんところで、一緒に暮してゐたんだわ。それを今の人が未だにしよつちう、うるさくするもんだから、町田さんの家を昨日飛び出したつて言ふのよ。
阪井 へえ。(間)
お秋 阪井さん、あんた組合の方へは行かないの?
阪井 行かない。行
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