りにして、朝鮮へ行くと言つてゐる――。
阪井 俺はこんな片はだ。そして一人ぼつちだ。
お秋 一人ぼつち? ――さう一人ぼつち。(下を向いて)私はこんな淫売だから――。
阪井 なに? 何だつて? それがどうしたんだい。俺は自分の言つたことは忘れやしないよ。俺がシヤンとして働ける様になれば、お前を女房にすると言つた。今でもさう思つてゐる。
お秋 まつぴら。
阪井 なに?
お秋 まつぴらだわ。私はいつまでも淫売で結構。
阪井 さうか――まあ、いゝ。
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表――即ち舞台奥を何か罵り騒ぎながら走り過ぎて行く多勢の人の足音、その音に、唯一人残つて眠つてゐた客が目をさましてキヨロキヨロするが、再び眠り込む。
[#ここで字下げ終わり]
お秋 おや、どうしたんだらう?(戸を開けようとする)――(同時に、二階から階段に音を立てゝ杉山が降りて来て、階段の昇り口に立つたまゝ)
杉山 おい、お秋さん。
お秋 (戸に手をかけたまゝ)え?
杉山 いゝ加減にもう出してくれてもいゝぢやねえか。
お秋 くどいわねえ、居ないと言つたら居ないのよ。
杉山 そんな事を言つたつて、彼奴が町田んとこに居なくなり
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