る。早く来てくれ、手が足りねえんだ。
仲仕一 よし、ぢや丸菱の親爺に口を利かせるな、行かう、おい、阪井君来てくれ、君が来てくれなけりや――
阪井 俺なんかを頼りにしないで、やつてくれ。
仲仕二 ま、ま、まだ言つてゐる! そんなお前、そんなお前――。
仲仕一 とにかく、阪井、誰が何と言つたつて君が来て喋つてくれないぢや、皆は何ともならないんだ。考へ直してくれ。俺達は先へ行くから、放つとけねえんだから、頼むぜ、頼んだぜ。
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仲仕達急いで出て行く。間。
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阪井 (それまでヂツト隅の椅子から自分を見詰めてゐたお秋に)――もう一杯。
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お秋黙つて立つて酒を注ぐ。短い間。
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お秋 阪井さん、あんた本当に行かないの?
阪井 ――何が?
お秋 ――私や、今迄そんなあんただとは思つてゐなかつた。(短い間)
阪井 俺だつて。――ま、そんな事はもう言つてくれるな。――何だか馬鹿に気が滅入つていけねえんだ。こんな男だらうよ。
お秋 弟なんぞは、あんたのことを、いつも何て言つてゐるか。――だのに、あんたは、皆をおいてきぼ
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