度言つても、黙つて石の様に何も言はないで、俺を睨んだまゝ死んだ。あん時の顔が、あん時の妹の顔が――二三日前から、組合の連中の顔から俺を覗くんだ。俺をヂツと見るんだ――俺はさう思つた。これでおしまひだ。俺は奴等に何も言ふ資格が無い。誰かがその内に奴等の眼をさましてくれる。しかしそれはおれぢや無い。俺は途中からどつかへ落つこちる人間だ。沢山の俺みたいな人間が落つこちて、その後に来る奴が本当に皆の役に立つんだ。それは俺ぢや無い――。
仲仕一 だからよ、たゞさう言つてくれりやいゝんだ。俺の妹は俺をうらんで、俺を睨みながら死んだ。皆な自分の身内の者をそんな目に合はさない様にしつかりしろつて、さう言つてくれ。一時おくれりや一時の負けだ。丸《まる》二や山東《さんとう》や丸菱《まるびし》ぢやもう買収を始めてゐるんだぜ。奴等只でさへ腰がフラフラしてゐるんだ。
仲仕二 ぢれつてえな。おい、阪井君、君は。
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一人の仲仕が戸を突き飛ばす様にして入つて来る。
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仲仕 おい大変だ、早く来てくれ、本部に手が廻つてもう帰らうとしてゐる連中が随分ゐる! 今、ワイワイ騒いでゐ
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