ね。早く来てくれ。俺達十人ばかりで、組合の方にやつと三百人ばかりの連中をかき集めたんだ。今ワイワイ言つてゐる。何か喋つてくれ、奴等にどしやう[#「どしやう」に傍点]骨を入れてやるのはお前で無きや出来ねえんだ。
阪井 そんな事を言ふな。今俺にはそんな元気は無い。今奴等の顔を見たつて俺には何も言へやあしない。
仲仕二 そ、そ、そ、そんなお前、そんないこぢ[#「いこぢ」に傍点]にならなくたつて。
阪井 いこぢ[#「いこぢ」に傍点]になつてゐるんぢや無いよ。俺は去年、この片手がウインチに、あんな事で喰ひ取られた時から、自分一人のいこぢ[#「いこぢ」に傍点]な根性なんか捨ててゐる。――そんなこつちや無いんだ。
仲仕一 しつかりしてくれ、しつかりしてくれ、君が、君がそんな風だつたら、俺達はどうなるんだ。それを考へてくれ! 君は、君つて男は、自分一人の阪井ぢや無えんだ。俺達の阪井だ。
阪井 ――今になつて君等はそう言《いふ》んだ。――俺の気持がこんなに押しつぶれつちまつてから。――ぢや言はう、この前の時も俺達は負けた。あん時、俺はたつた一人の妹を取られた。妹は俺をうらんで死んだ。勘辨してくれと俺が何
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