た、今の連中が言つた、なあお秋んべ、さうだ阪井なんて男は、さう言つたんださうだけど、なにしろ、仲仕の方は昔からのしきたりで親方がゐたり何かして、うまく行かないんださうだ。――それもさうかい。
客一 だが、これが、どうも世の中が段々おだやかで無くなつて来たなあ。
客二 止さう、そんな話。酒がうまく無えや、秋ちやん、もう一杯。
お秋 まだ?
客二 まだ? じよ、じよ冗談を。まだやつと三杯だ。何を言つてるんでえ……。
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身体のガツシリした、左腕の無い阪井が冷たい沈んだ顔をして、黙つて入つて来る。
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お秋 あ、阪井さん、今、あの――。
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客達が阪井を見る――阪井黙つて左側の椅子にかける――間。
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お秋 どうしたの?
阪井 ……(黙つてお秋を見る)
お秋 たつた今さつき、合宿の人達が大勢で見えて、あんたを捜してゐたわよ。――さう言つてくれつて、あんたが帰らなきや困るつて、山三の親方なども来てゐるつて。
阪井 さうかね――。
お秋 どうしたの? 身体の加減でもいけないの?
阪井 いや。
客一 おい、お秋ちや
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