るの! そんな事言ふと私が承知しないわよ!(階下へ)おかみさん、沢ちやんはまだ駄目よ。私が沢ちやんの分まで引受けます。(沢子に)なあに平気よ。それ位のこと、この私に出来ないと思つて? ところで、さ、戦闘準備だ。あんたの鏡台貸してね。さ、忙しいぞ。
沢子 えゝ、いゝとも。――済まないねわねえ。
お秋 チツ、又言つてるよ。(安つぽい赤の長繻絆を見せ半ば肌脱ぎになつて、鏡台に向つて化粧しながら)――私なんざ、お上手でゐらつしやるからね、沢ちやん見たいにへまはしないのよ――一体あんたは、お客に少し親切過ぎるのよ。――だから病気なんかになるんだわ。――白粉が濃過ぎたかな。どう?
沢子 いゝえ、それ位で丁度いゝわ。――あんたの肌はいつも綺麗だわねえ。どうしてさうなんだらう。私なんざ若いくせに――。
お秋 そりや、クヨクヨ物を考へないからよ。
沢子 私、時々、あんたに抱かれて寝たいわ。――あんたの肌を見てゐると、私、小さい時に別れたお母さんを思ひ出すんだもの。
お秋 私が男なら、沢ちやん、惚れて?
沢子 えゝ、惚れるわ。死んでもいゝわ。
声 (階下から女将)秋ちやん! 秋ちやん!
お秋 今、行きます
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