手を引くと言ふこと。
お秋 私にやよく解らないわ。
沢子 近頃阪井さん来ないの、秋ちやんとこ。
お秋 時々来るにや来るけど、あのだんまり屋が、――たまに何か言ふと、黙れ!(右手を突出す)
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二人笑ふ。
階下《した》から呼ぶ女将の声。
[#ここで字下げ終わり]
声 秋ちやん! 秋ちやん! 何よ[#「よ」に傍点]してゐるの? 秋ちやん!
沢子 おかみさんが呼んでゐるわ。
お秋 お客が来たんだわ。なに、少し放つときやいゝんだ。
声 秋ちやん! 何を又グズグズしてゐるの、少し下にも来てお呉れよ。私一人ぢや手が足りなくて困つてゐるんだから。
お秋 (障子から顔だけ奥へ突出して)はい、はい、今行きます。
声 はいはいぢや無いよ。御病人の看病は後にしておくれよ。この忙しいのに!
お秋 わかつてるわ。私、直ぐに仕度をしますから。
声 病気々々つて、何が病気だか本当に知れやしないよ。まるでお嬢様みたいに思つてゐるんだからね。(二階まではハツキリ聞へないが、まだグズグズ言ふ)
沢子 秋ちやん、私、今晩から起きるわ。その方がいゝわ。一人か二人のお客だつたら――。
お秋 何を馬鹿を言つて
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