ふ男はさうした人間なんだ。
お秋 …………。
秦 さうだから仕方が無えんだよ。
お秋 さうした人間だつて、あゝした人間になれない事は無いわ。その時が来れば。
秦 (ボンヤリと)さうさ、――時が来れば。(間)俺には今度の阪井さんの気持だつてよくわかるんだ。阪井さんの言ふことは本当だ。船の連中だつて仲仕の方だつて同じだ。連中がせつかくあゝやつてストライキを始めたのを、それを仲仕の方ぢや応援もしてやらねえで、あべこべに撲るなんて間違つてらあ。
沢子 随分けが人が出たつてね。
秦 あゝ、そん中の三四人はウツカリすると死ぬかも知れねえ。――みんなが阪井さんの言ふ事を聞かねえんだ。あの剛腹な、ウインチに片腕もぎ取られても笑つてゐた阪井さんが、泣いてゐたのを俺は見た。秦君、俺ももう手を引くよつて言つた。
お秋 手を引くつて、なんだつて又――。
秦 もう、あいそが尽きたんだろ。尽きもするわね。
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短い間
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お秋 本当にもう帰つたらどう?
沢子 お願ひだから、帰つて、私、苦しくなるから。
秦 あ、帰るよ。――(立上る)大事にして呉れ。(出て行く)
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