秦、しよげている。
[#ここで字下げ終わり]
お秋 私にやわからないわ。新さん、私、変な事を言ふ様だけど、あんた、家を持つてゐる身体で、どうしてそんなにこんな所にばつかりやつて来るの?
秦 そんな、俺だつて、さう始終やつて来るんぢや無えよ。
お秋 だつてさ、さうぢや無いの? あんたが妻子《つまこ》がありながら、沢ちやんの所へ来るのも、度々言ふけどそんな気持も、私だつて解つちやゐるのよ。そりや人間には、自分がかうと思つても、さうならない事もあるもんだわ。――だけど、つまりが、それは間違ひだわ。
秦 そりや俺だつて――。
お秋 知つてゐるなら、どうしてさうしないの? しかし、私はさう思ふわ、物事はやつて見なきやならないのよ。やつてみなきや、出来るか出来ないか、わからないのよ。
秦 わかつた。わかつたよ。
沢子 この人はいくぢ[#「いくぢ」に傍点]無しよ。
秦 いくぢ無しだ。さう言はれりや――。考へて見りや家の奴等が可哀さうだ。さう思つてはゐるんだけど――。今度の騒ぎだつてさうだ。俺にはどうしなけりやならんかは、よくわかるんだ。それで何も出来ない。黙つて見てゐることしか出来ない。――俺と言
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