にくらべて、お前さんがどう不仕合せだつて言ふの? もう後、たつた一年で何もかも気楽になるんぢや無いの。そりや、そりや、そりやかうして、こんな所にゐるのは、地獄にゐる様なものさ。だけど、そんな泣言を言へば、それがどうなると言ふの? 地獄は地獄さ。それがどうしたつて言ふの? 泣虫!
秦 さうだ、さうだ、そんな今更言つて見たつて――
お秋 それより早く、身体を治してさ、ピンとしてりや、そんな――。
秦 さうだよ。人間、苦しいことを言へば、きりは無えんだから。俺なんぞも、これで、お前――。
お秋 そんな事言つても、(咎めると言ふよりはなだめる様に)新さん、ノコノコ沢ちやんに通つて来るんだからね。小さいのは、達者?
秦 こいつあいけねえ? 藪蛇だ。もう帰る、帰るよ。あやまつた。
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三人弱々しく笑ふ。
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お秋 (しんみり)おかみさんもだけど、小さいのには、よくしてやらなきや駄目よ。親に捨てられたが最後、子供はどうなるか知れないんだから。私達姉弟がいゝ見せしめだわ。
沢子 ――私も早く帰つて呉れと、先刻から言つてゐるんだけど――。
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