ただなあ。
おかみ もっと、ちゃっけえ声で頼むよ。なあに、一つは、ヤキモチだ。よその内で、ちっとでもうまい事してるの見ると、たちまち眼を光らして、尾ひれをつけて云いふらすだ。(庭場を横切って行く。仲買も自転車を押してそれにつづく)闇売りの事ばかしじゃねえ。おらなぞ、こうして戦争後家ば立て通して三人の子育てるためにお前さん、まっ黒になってタンボ稼いでいるのに、人の気も知らねえで、やれ、町の男と話していただのなんのかんのと、とんでもねえ事云いふらすだ。
仲買 そうりゃ、まあ。――だども、そいつは、一つはおかみさんがそうやって綺麗でよ、それにまだそんな年じゃなしなあ、へへ、男が見りゃ、チョックラそんな事も云いたくなるずら。カンを立てるにもあたらねえとも、この――
おかみ なによ、アホな事言うだい、フフ、男なんざ、死んだ亭主でこりてら。
仲買 そうでやすかねえ?
おかみ そうでねえか? 無事でいる時ぁ、酒えくらって、なんとか云やあ町に出ちゃ変な女とジヤラジヤラしてよ、そいで戦争になると、自分一人で日本国ばひっちょったような血まなこになって、か、なら[#「なら」に「ママ」の注記]されたがよ、万才
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