買 ねえ、おかみさん、俺だって何もこうして朝っぱらから、駆けまわるの嫌だけんどよ、今度ばかりは金儲けの事はさておいて、どうしても二斗ばっかり集めてやらねえじゃ、取引先きに義理の立たねえわけが有ってなあ、ひとつ頼むから、たとい一升でも二升でもええから、分けてくれろや、頼んますよう。
おかみ 有るにゃ有るよ、五升でも六升でも。だども三百円ぱっちじゃ、まず、話になんねえなあ。内でも、今月二十六日の、あと四日か……ミソカまでにゃ税金払わねばならねえし、金の当ては無えだから、いずれなんか売らねばならねえだから――
仲買 んだからよ、頼んますよ、な! ええい、思い切った、もう五十両ふんぱつしようでねえか。こうなったら意地だ。
おかみ お前さま、そんな往来ばたに突っ立ってちゃ困るよ、こっちい、へえって来なせえ。近頃じゃ、この辺、組内でいながら駐在に云いつけたりする者がいるだ。人に見られると、うるせえ。
仲買 ほい来た。(自転車を引いて、木戸口へ行き、バタンと開けて庭場に入って行きながら)いやあ、全くなあ、そんなふうになっただかねえ。百姓は人が良いなんて云うのは、戦争からこっち夢のような話になっちゃっ
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