ぁいなんて云って行っちまって、忽ちコロリだ。自分だけは、さぞ良い気持だったろうさ。おらや、子供たちぁ、ポンと後にうっちゃられて、このザマだ、勘定合ゃあしねえ。
仲買 だども、へへ、その御亭主が恋しい時も、たまにゃあるずら? そうは薄情に云わねえもんだ。ハハ。(バスのクラクションの音近づく)
おかみ ハハハ、ハハ、さ、こっちい、へえってくんな。あの隅のカマスの下が、そうだがな。
仲買 ありがてえ、おらが出しやしょう。(ズカズカ、納屋に入って行き、その辺の農具などを、取りのける音)
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垣の外の街道を激しい音をたててバスが通り過ぎて行く。
[#ここで字下げ終わり]
おかみ 一番のバスが行かあ。
仲買 この下だね?(云いながら、取りのけている)
おかみ ……ああ、鷲山の鈴の婆さまが通る。……(しかし鈴の音は聞えない)
仲買 え、なにかね?――(おかみ返事せず。離れた所を通り過ぎて行く鈴の音が微かに聞える)よいしょと、このカマスの下の、これだなあ? (返事なし)……これだべ?
おかみ ……いじらしい。
仲買 あんだよ?
おかみ 鈴鳴らして行かあ、鷲山の婆さまよ。
仲買 ああ
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