てらあ。ケガでももしあったら、どうしる気だな、ホントに――
かつ すんましねえ。いくら止めても、どうしても行くつうて――行かせねえと三日も四日も変テコが治らねえもんだから――
そめ おらが悪い。おらが悪いんだからよ。
馬方 子供の可愛いいのは知れたこんだ。まして老い先きの短けえ婆さまが伜にこがれるのは、誰だって察しが附いてら。だのによ、そうた聞き分けのねえのはおめえ、ツラ当てが過ぎるだぞ。そうでなくても、近ごろの世の中なんて、おめえ、カンにさわる事ばっか多くて、誰彼なしにムシャクシャ腹だあ。何事が起きるか知れたもんでねえぞ。
かつ すみません、よ――これから、よく気い附けてナニすっから。
馬方 なによ、怒って言ってんじゃねえ。どうだ、車さ乗って行くかお前さんら?
かつ いえ、もう直ぐそこだけん。
馬方 ほうか。じゃま、やい歩べ――(馬がポカポカ歩き出す。空車の音)
かつ ありがとうございましたよ。
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ガラガラと遠ざかって行く荷馬車。
[#ここで字下げ終わり]
かつ ……さ、婆さま、早く帰るべ。あんまり遅いで……じょうぶ心配したよ。めしの支度途中で、がまん出来ねえで
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