ま、お前の云う事は、よくわかりやすけどねえ、毎月々々ここへ来て、そんな事云われてもだなあ、ここは村役場だかんねえ、どうしようも無えから――そらあ、二人っきりの息子が戦争に取られて二人とも戦死、したと思っていたら末の息子が捕虜になって生きていると知ったんだから、親の身としてお前みてえになる心持は、わかるけんどよ、ここに催促に来られてもだな、どうにも、へえ――
農夫 へへい、息子二人をなあ、ほかに子供は無えのか?
そめ はい、二人きりでやす。でも、なんでやす、お国のためでやすから、兄の久男だけは、しかたありゃせん、差し上げやす、末吉だけは、どうぞお返しなすって。はい亭主はとうに死にやして、後家で永らく苦労して育てて来た子でござります。末吉一人だけは、どうぞまあ、お返しくだされまし。
吏三 弱ったなあ。この調子で、夕方までブッ坐るんだから(農夫に)いやね、上の息子の時も、下の息子の戦死の公報が入った時も、チャンと諦らめを附けてビクともしなかったつうんだ。そこへ二年近く経っちゃってから、つまり、去年の五月頃のつまり二十六日に、死んだ筈の末の子からハガキが舞い込んだ。うれしくって、カーッとしちま
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