じゃないかな?
須永 そうですか。……(まだ何か言いたそうにするが、言わず、チラリと若宮に目をやってから、スタスタと部屋を出て行く)
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(間。……そのままジッとしている若宮と浮山。若宮は胸が苦しいと見え、左手で胸をおさえて、刀は握ったまま石のようになっていたのが、力を出し切ったと見えて、ゴロンと横に倒れる)
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浮山 ……若宮さん、どうした?
若宮 なあに。……ちきしょう、気ちがいめ! だから、一刻も早く警察に引き渡しゃいいんだ。ふう! ふう!
浮山 ……(それを見ているうちに、はじめてフテブテしくニヤリとして)あんたも、しかし、いいかげんにするがいいなあ。変な、あんた、慾をかいて、なにしていると、間も無くあんた死にますよ。
若宮 ふう! ヘッ! 嫌がらせかね? ヘヘ、(と息も絶え絶えだが、口はへらない)死ぬのは広島の婆さんで、わしじゃないよ。わしは、まだ百まで生きてるつもりだ。ヘ、婆さんが死んだとなると、この家屋敷あ、柳子とわしの手に転げ込んで、君なんざ、往来なかへ、おっぽり出されるからね。気がもめるわけさ!
浮山 知らないんだなあ。あんたはね、自分では腎臓が悪いと思ってるが、その腎臓よりも、しかしホントは心臓だと言うじゃないですか。ヘヘ、舟木さんが、この前診察した後で言っていた、心筋変性症とかのひどいので、梅毒から来た心臓の筋肉がどうにかなっちゃってるから、今度、発作が来れば、明日にでもゴットリだそうじゃないかね。
若宮 ヘ、なあにを言う! 香月先生なんざ、そんな事あ絶対に無いと言ってるぞ。博士だよ香月先生は。博士が、腎臓がチョット悪いだけで心臓のシンも言やあしない。その証拠に薬一服くれやしないんだ。ヘ、何を!
浮山 薬をのんでも無駄だから、くれないんだよ。舟木さんがそう言ってますがね。
若宮 その手を食うかい! とんだ道具はずれを叩いといて、その隙に場をさらおうと言う量見だろうが、ヘッ、三十年から株できたえた若宮を見そこなってもらうめえ!
浮山 その証拠に、たったあれだけ動いただけで、そうやって伸びちまっているじゃないかね。胸が苦しいんだろう? 悪い事は言わない、柳子の書類や実印は柳子に返してだな、ここを出て、どっかアパートにでも行ってくれる事だなあ。なんなら、私がアパートぐらい捜してやってもよい。あんたにゃ、房代と言う立派な娘さんも居るしさ。フフ、立派……とまあ、パンパンだって、これで、高級になれば今どきでは立派なもんだからね。娘を稼がせて、あんたあ左うちわじゃないかね。
若宮 大きなお世帯だ! この――(と、やっと起きあがって)そいで、浮山君、君はどうしようと言うんだ?
浮山 わたしは柳子を女房にして、ここで暮す。
若宮 ヘ! お前さんが柳子を女房に、どうして出来るね? 笑わしちゃいけません。知らねえと思っているのかね?
浮山 なにい! (立ちあがる。真青に怒っている)
若宮 ヘッヘヘ、ヘッヘ! なあんだ、来るのか? 柳子から、わしあ、なんでもかんでも聞いているんだ! ヘヘ、君がコーガン炎の手術の手ちがいで、そん時以来、男じゃなくなっている事まで知っていますよ。
浮山 ちきしょうッ! (若宮の方へ突進して行く)
若宮 (フラフラと立ちあがり、刀を振りまわす)来て見ろ、腎虚め!
浮山 野郎! (と、ポケットから掴み出した。センテイ用のスプリング・ナイフの、スプリングをパンと押して、ギラリとした刄を出す)
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(雙方で刄物を構えて立ちはだかる。……)
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モモ 叔父さん。……(いつの間にか、廊下の所に来て立って、細い首をさしのべるようにして、室内の様子をうかがっている)
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(浮山も若宮も睨み合ったまま、それに答え得ないでいる)
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モモ どうしたの、叔父さん?……
18[#「18」は縦中横] 食堂
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(椅子にかけた私に向って織子が懸命に、ほとんど祈らんばかりに訴えている)
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織子 お願いです! あなたから、おっしゃって下さい。あなたから言われれば舟木は聞くかもしれません。いえ、聞かなくても、自分のしようとしている事を多少は控えるかもしれないのです。私は恐ろしくてもうジッとしていられないのです。
私 すると……しかし、あなたはこれまでズーッと舟木さんがそう言うつもりでいるらしいと思っていられたわけなのに、それでも今まで黙っていられたのに、今夜急に、そのジッとしてはいられない――で僕に言われると言うのは、どうして――?
織子 どうしてだか、私にもわかりませんの。不意に我慢が出来なくなったんです……あの須永さんて方を見たせいかも知れません。
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