無いか! みつとも無い姿で、あつちへフラフラこつちへフラフラしたつて構ふもんか。それが自分だ。一枚二枚の画を描く事よりや、その方が大事ぢやないか。その内に偉くなりや、動揺なんかしない時が来るかも知れん。そんな事あどうでもいゝ。芸術よりや生きる事の方がズツとすばらしい事だよ。(いくら喋つても何か肝心の事がうまく言へないやうな気がするのである。そのために、明るく幸福な気持のまゝに、少しイライラしてゐる)
赤井 そりやさうだ、動揺をかくしたつて始まらん。実際僕なんかも、もう今では割に平気でゐるけど、白状すると赤紙が来た時は顫へが出て止まらなかつた。怖いのとも違ふ。が、どうしても顫へて顫へて、その一晩どうしても眠れないんだよ。伊佐子に、まあどうして顫へるのと言はれて、どうしたんだか顫へだけは一遍にとまつた。……そんなもんさ。……僕達の若さぢや動揺するのが本当かも知れないね。第一、五六年前までの僕達だつて、今から思ふと一つの動揺であつたと言へば言へる。……あの当時の思想の体系は簡単に僕等の裡ではくづれてしまつた。……しかし、あの当時に掴んだ物の考へ方の中の一番本質的な要素……つまり人間に対する信
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