いよ。
赤井 お世辞を言つたつて始まらん。近頃僕あ恐ろしく単純になつちやつてるんだ。いよいよ行くと決つた時から、お世辞だとか論理学だとか、そんなものが洗ひざらひ無くなつちやつた。頭の中が子供みたいになつちまつた。
五郎 ぢや、ホントにさう思つてくれるんだな。俺あホンモノの画描きなんだな? きつとさう思ふんだな君は?
赤井 あゝ、思つてる。君あ俺達の仲間の中で一番ホンモノだ。
五郎 ……さうか。……そりやどうでもいゝ。とにかく俺あ、戦争の大砲の音を間近かに聞きながら小説を書いてゐたとか言ふゲーテなんて奴の事はわからんね。わかりたくも無い。ゲーテなんてインチキな男だ。それにズルイよ。ありや政治家で、幸福で、結局自分が直接戦争に参加しなければならぬ危険が無かつたからなんだらう。第一、それは醜態だよ。自分も参加して、たとへば戦闘の行はれてゐる塹壕の中で小説が書いて居れたら、偉いと思ふがね。……とにかく、俺あ、今の瞬間を自分だけ安全だと言ふ気はしないものな。実感だよ。それに俺あまだ人間としても画描きとしても青二才だ。自分の動揺をかくしたくない。動揺する時はした方がいゝんだ。それが生きて行く事ぢや
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