な気になれない。
赤井 さうだらうなあ。
五郎 いや、病人を控えてゐるせゐやなんかぢや無いよ。もつとなんか、現在の事をよほど考へ直して見なきやならん事が有る様な気がするんだ。今迄通りいくら[#「いくら」は底本では「い ら」]セツセと画を描いても、なんにも解決されない[#「されない」は底本では「されな 」]やうな気がするんだ。いや、今の世の中を否定する気持ぢや無い。うまく言へんけど、……もしかすると俺達は今、なんかすばらしい時代に生きてゐるかもわからんと言ふ様な気がするんだな。
赤井 そりやさうだ。俺もそんな気がする事がある。しかし、それにしても君が画を描かない理由にはならんだらう。
五郎 だからさ、俺にや、画なんか描いてゐると、このすばらしい時代の意義……いや、意義なんてそんな理窟張つたもんぢや無い。姿と言ふか光りと言ふかね、そんなすばらしい物が俺の指の間からこぼれ落ちてしまふやうな気がするんだよ。……もつとも、こんな気がするのは、もしかすると、もともと俺の画がホントに生きた物で無かつたからかも知れん。
赤井 そんな事あ無いよ。君あホンモノの画描きだ。
五郎 お世辞を言ふな、君らしく無
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