世話あ無いや。わあ、真二ツになつちまつた。ひでえよ! (ブツブツ言ひ続ける。でも此の男の性根は、こんな目に会つても、ホントに怒つてゐるのかどうか見当がつかない。顔を悲しさうに歪めて破れたスケツチ板をついで見たりしてゐる)
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間。……少し風が出たと見えて波の音が稍々高くなる。
五郎は黙つて家の方へ向つて行きかける。
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五郎 ……(砂丘の向うを見て)あ……来やあがつた。
尾崎 なんだい。
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 そこへ商人らしい半白の中年過ぎの男がボンヤリした様子で出て来る。これは五郎の借りてゐる家の家主の荒物屋の主人。少しぼけた様な感じがあつて、ノロノと[#「ノロノと」はママ]物を言ふのである。五郎を見てニヤニヤと笑ふ。
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五郎 やあ、裏天さんか。
裏天 なあんだ。いくらなんでもシトの目の前で、そんな事を言ふのは、ひでえよ、久我さん。
五郎 なんだよ?
裏天 近所近辺から、内のかゝあまで、さう言つてゐるのは知つてるけど、鼻の先で言はれたなあ、あんたが初めてぢや。ヘヘヘ、いくらわしらの鼻が低いたつて、まだこれでツラの地
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