るが、それがどうしたんだ! いつでも、君も僕も共通な問題を持つてゐるよ、君の考へてゐる事は僕も考へてゐるよと言はんばかりのツラをしてザコがトトに混つた気でゐるが、ヘドが出らあ! ザコどころか、き、き、君なんかな、人間でも芸術家でもあるもんか! たゞの猿だ、画描きの真似をしてゐる猿だ! なんだ、こんな画が! これで画を描いてゐるつもりなのか! (と下駄でスケツチ板をベリツと踏み破る)画と言ふものはな、借金の催促をする片手間に描けるやうなヤワな物ぢや無いんだぞ! 人間一匹、血みどろになつて、火の様に焔の様に、命を投げ出してかかつて描いても描いても、描ききれないもんだぞ! ツラでも洗つて出直せ!
尾崎 (相手の狂態にびつくりしてゐる)な、な、なんだよ。そんな……そんな僕の画を、そんな事しなくてもいゝぢやないか! 君あ神経衰弱だよ!
五郎 神経衰弱だらうと、気違ひだらうと大きなお世話だ。帰れ! 帰つてくれ! 金は月末に返す。心配しないで、帰れ……(自らの昂奮に疲れ、ハアハア言つてゐる)
尾崎 帰るよ。せつかく好意を持つてやつて来たのに、猿だなんて言はれてさ、あげく、せつかくの画を踏み破られりや
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