言つてゐるんだ。ハツハハ、昂奮するなよ。
五郎 ……いよいよ困れば俺は荷車引きにでも何でもなるから放つといてくれ。
尾崎 同じ事ぢやないかね? 芸術の世界に入り込んで来てゐるいろんな現実も醜いと言へば言へるけど、そんな物をも消化したり吸収したりして芸術それ自体も肥えて行くんだと僕は思ふがなあ。
五郎 知つてるよ。現に俺もそれをやつてる。しかし水谷さんの話は駄目だ。
尾崎 これだけ言つてもわからんのかねえ! ……全体君は人間を見るのにキレイな人間とキタナイ人間との二色にハツキリ区別しすぎるよ。さうぢやないか! 現に君があれ程讃美してゐるツンボの小母さんにしたつて、結局人間だ。つまり、水谷さんや此の僕とチツトも違はない性質を持つた人間だよ。腹ん中にやドブも有らうし、慾も持つてる――。
五郎 (遂に火の様に怒つてしまつた)黙れ! 小母さんはな、俺達からなんの報酬も期待しないで、あゝして身を粉にしてやつてくれるんだ。それをそれを――君なんかが、小母さんの事をどのツラ下げて言へるんだ! 君は唯の金貸しだ! 人に金を貸して高利を取つてゐりやいゝ人間だ! 画描きの真似事をして芸術家ぶつた事を言つてゐ
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