しかし、好き嫌ひが何だい? そんな変な事ばかり言つてないで本当の事を聞かしてくれよ。
五郎 ……ぢやね、尾崎君、君も本当の事を聞かして呉れ。俺あ不思議でならないんだ。水谷先生、なんでそんなに俺を欲しがるんだ? 先生は以前に俺の画をクソミソに頭からくさした人だよ。そりや、いゝんだ。世の中にはどんな批評だつて有るから、どんな筋違ひの事を言はれたつて、俺あ構はん。含んでゐるわけぢや無いんだ。たゞそんなに言つてゐた俺の事を、なんでそんなに欲しがるんだか、俺にや腑に落ちないんだよ。
尾崎 そいつは先刻言つた。あの人が君の実力を認めてゐるからだよ。昔いくら悪口を言つたつて、いや、つまり認めてゐたから悪口を言つたわけだが。……いや、君がそこまで言ふなら、モツト本当の事を言つちまはう。もつとも、これは半分以上僕の解釈だから、そのつもりで聞いてくれ。いゝかね。それは、一言に言つちまうと新水会で現在水谷さんの占めてゐる位置のためさ。……君あ多分知るまいが、今新水会の内部は審査員や会員の間の勢力争ひの暗闘で大変なんだ。以前からそりや有つたが、最近文部省展覧会が大々的に組織変へになる筈になつてゐるんだ。それに
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