入りたく無いと言ふのは、わからんがなあ? まさか、水谷先生が君にインチキ画を描けと命令するわけぢやあるまいし、君の描く画の批評だつてしやすまいと思ふんだが? 又批評されたつて、水谷先生は水谷先生、君は君で、お互ひに一家をなした画家なんだから、自由に仕事をすればいゝぢやないか? 大体、画の仕事の上で、水谷先生位を怖がる君でも無いだらうし、怖がる必要もないと思ふがなあ。君なんぞ、あらゆる意味で水谷清次郎なんか、当の昔に卒業しちやつてるもんな。もつとも先生が今君を欲しがつている理由も実は、そんな君の実力に在るんだが。……とにかく、どんな点から言つても、なんで君が彼処《あそこ》に行くのをそんなに嫌がるのか、僕にやわからん。
五郎 ……俺にや当分画が描けんからだ。
尾崎 だからさ。彼処に行つて金になる仕事を分けて貰へば描けるやうになるぢやないか。先刻言つた本質的な行詰りと言つたやうなものも、周囲の空気で打開出来るんぢやないかしら。君は少し大袈裟に考へ過ぎてゐると思ふんだ。
五郎 ……それに、俺あ、水谷さん嫌ひなんだ。
尾崎 子供みたいな事を言ひたまふな。君が先生を嫌ひな事は初めから知つてゐるよ。
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