う二ヶ月も払ひが溜つてゐるんぢやなくつて?
小母 (美緒の言葉は耳に入らない)そんなもんミソカでよろしおす。これ位のことグズグズ言ふやうでは、あきうど[#「あきうど」に傍点]冥利に尽きますえ。
美緒 ……(手で小母さんの片方の耳を引つぱつて自分の口の近くへ持つて来て)……だつて、あのね、あの魚屋さんには、もう二ヶ月も溜つてゐるんでせう?
小母 へ? へえ。なあに、二ヶ月位が、なんどす! 三十円や四十円、みんながみんな払はんと逃げ出しても大事おへんわ! それ位の儲けは此の二年の間にチヤーンとさせてありますがな!
美緒 だつて、そんなわけには行かなくつてよ。
小母 奥さんは、そないな心配せんと置きやす。余計な心配おしなすから、五郎はんに年中おこられはる。ええか! お金なんぞ全体なんどす? 有る所へ行けば、いくらでも有りますがな。今に五郎はんがターンと絵を描きはつて、トクマン円でもなんでも儲けて来てくれはりますがな。
美緒 ……(嬉しさうに、しかし同時に寂しさうに微笑んでゐたが、やがて湯殿の方に眼をやる)
小母 クヨクヨしたら、あかん! 奥さんは大々名にならはつた気でソツクリ返つて空でも眺め
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