、今、かうして半ば好意から旧い知り合ひの此の家に働きに来てゐる身分である。眼をズルさうに輝かしながら)ヘツヘヘヘ、奥さん、これ、見なはれ!どうや!
美緒 ……(両手の指を全部パツと開いてビツクリした事を示す)
小母 これで今夜のおさいがでけた。三枚におろして、サシミを取つたり残りをおツユにしてあげまつさ。
美緒 ……? (手真似で魚はいくらしたと訊ねる。唖かと思はれる位に手真似の会話に馴れてゐる。絶対安静中は声を出してはいけないと命じられてゐるし、又、此の小母さんに聞える位に大きい声を出すことは彼女には既に困難になつてゐるのだ)
小母 これで八銭どす! 十五銭と言ふたのをチヤツと八銭でまき上げてこましたわ。凄腕どすやろ!
美緒 ……(うれしがつて拍手をして見せる。しかし銭のなかつた事を急に思ひ出して、心配さうに指で丸を作つて見せて、代金はどうしたと訊ねる)……?
小母 へ? アハ(と手を大きく振つて)大丈夫、大丈夫! そないなものミソカでよろし。
美緒 (非常に低い澄んだ声。この時だけで無く彼女の声は始終ひどく低く小さい。高く大きな声はもう出ない)だつて、小母さん、あの魚屋さんには、も
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