郎 渡してゐます。……どうしてそんな事おつしやるんですか?
母親 いや、それならいゝんですけどね、なんだかあんまり内輪の人間みたいに、馴々しいと言ふか……。
五郎 さうでせうか? でもあれは美緒をしんから大事にして呉れてゐるんです。
母親 そりやさうの様だけど。……でも美緒も、なんであんなに近頃神経を尖らしてイライラするんですかね。あれぢやまるで話もなにも出来やしないんですものね。(五郎答へない)
恵子 五郎さん、先刻誰か来てゐたやうよ。なんか商人みたいな恐ろしく鼻のペチヤンコの中年の人だつたわ。小母さんが相手になつてチンプンカン言つてたわよ。
母親 いつか来てゐた乾物屋らしかつたぢやないか。
五郎 ぢや裏天でせう。僕が間も無く戻りますから。
母親 でも、あなたとは先刻の話をしたいから、こちらが済んだらチヨツト此処にゐてくれないと――。
五郎 さうですか……。
恵子 (沖を指して)母さん、汽船が通るわ。
母親 へえ、綺麗だねえ、まあ! (と言ひながら二人は浜伝ひに向うへ消える)
尾崎 ……妹さんは相変らず綺麗だな。……なんだい、先刻の話と言ふのは?
五郎 う? ……うん、なあに。
尾崎
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