はあ。(これまでホンの一度か二度チラツと見たきりの相手があまり馴々しいので、妙な顔をしながら)……いつも義兄達が御厄介になつてゐまして。
尾崎 そ、そんな事をおつしやられると穴にでも入らなきやなりませんよ。なあに旧い友達なもんですから、まあ自分に出来るだけの事をしてゐる迄で――。(母親に)なんですかねえ、御病人がハツキリしないさうで、御心配ですねえ。
母親 はい、いゝえもう、なんですか……ホホホ。(久我が美緒の療養のために、金を借りてゐるらしい此の男にかかり合つてゐると、その借金の責任が自分にもかぶつて来さうなので、相手にしたく無いのである。)……何か御用談でせう? 恵さん、私達は少しその辺を歩いて来ようぢやないか。(歩き出す)
恵子 (描きかけのスケツチ板を変な顔をして見てゐたが)えゝ。
五郎 ……あのう、美緒は飯を食べちまつたんでせうか?
母親 もう済んだやうですよ。でも、あの小母さん、あんなに美緒を笑はしてばかり居て、病気に障りはしないんですかねえ?
五郎 いや、そりや構はないんです。機嫌が良いと食慾がつきますから。
母親 小母さんの月給はチヤンと渡して呉れてゐるんでせうね?

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