尾崎 だつて君……(と尚も言ひ続けようとするが相手が殆んど爆発直前の顔付きをしてゐるのに気付いて、黙つてしまつて、マヂマヂと見守つている。しかし五郎の怒りは直ぐに尾崎からもつと別のものに移つて行つたらしく、尾崎の存在など忘れてしまつて、ギラギラと光る眼で沖の方を見詰めたまゝ、黙つて考へてゐる)
 (間)
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 街道の方から母親と恵子が砂を踏んでブラブラ歩いて来る。
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恵子 ……ああ、こんな所に居たのね?
母親 お客が来るといつでも此処にお連れして話してゐなさるんだよ。美緒の安静をこはさないやうにね。此処が応接室だつてさ。ホツホホホ、ねえ五郎さん。
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五郎考へ込んでゐて返事をしない。
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尾崎 やあ、こりや、暫くでした。今日はお見舞ひですか。
母親 いゝごきげんですわね。こんな広々した所でお飲みになると、さぞ気持のおよろしい事でせうね。
尾崎 つい久我君がすゝめて呉れるもんですからね、ハツハハ、飲み助は意地がきたなくて。(と恵子に目礼をして、ひどく愛想が良い)えゝと、たしか、津村さんの――?
恵子 
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