と交際してゐる間に、いつの間にか自分まで芸術家らしい気持に伝染し、その外貌や用語などは芸術家以上に芸術家らしくなつて来てゐるが、しかし実は唯一個のデイレツタント――と言ふよりも、本質的には唯一人の商人を相手にして今迄自分はまじめに喋つてゐたのだと言ふ事を不意に知つたのである)……何を笑ふんだ!
尾崎 笑ひはしないよ。たゞ、昔、さも確信ありげにプロレタリアがどうしたとかかうしたとかと言つた連中が、自分の言つた事に責任も執らないで、いつの間にか消えて無くなつたと言ふ事を言つてゐるまでさ。
五郎 なんのために君がそんな事を言ふんだい?……今頃になつて君がその事を笑ふのかね? ぢや、君は一体何だ?
尾崎 ……僕は金貸しさ。ハハハ、それがどうしたい? 金貸しは、他人の言葉の責任に就て言つちやならんのかね? まあ、怒りたまうな、ハハ。君も知つてゐるやうに金貸しなんてものは世の中で一番怪しげな商売かもわからんさ。しかし、それでも自分がハツキリ言つた事に就ては責任を執るよ。人が自分に対してした約束も信用する。信用すればするほど、その約束の履行を期待するわけだ。つまり貸した金は必ず返して貰う。
五郎 だ
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