たな。自分に果してあんな所でいつまでも戦つて行けるだけの力が有るか無いかを考へきれなかつた。又は、有ると思ひちがへてゐたからな。徹頭徹尾、自惚れだつた。身の程を知らな過ぎた。その証拠に、あの連中の言つてゐた唯物論なぞと言ふものだつてドンづまり迄突きつめて行くと、僕にや信じられなかつた。……それでまあ、直ぐにおん出てしまつたけど、……考へて見りやどつちにしても、恥さらしな話さ。……しかしね、自分だけの気持は真面目だつた。人間として下劣な動機で以て動いた結果では無かつた。
尾崎 そんな事はなんでも無いさ。具体的な問題としてだよ、現に君は熱がさめちやつたら、いつの間にかあんな団体から手を引いちまつたぢやないか。もつとも団体の方でも解散したり転向したりしちまつて形は無くなつちまつたんだから、手を引くまいと思つても引かざるを得ぬわけで、言はゞ問題は君だけの事ぢや無いんだがね。ヘツヘヘヘ、ヘヘヘ。(突然に笑ふ)
五郎 ……? (それまで自分自身の考へに没頭して、相手の表情などに気付かずに率直に話してゐたが、笑ひ声でヒヨイと尾崎を見て、眼がさめたやうになつて見詰める。――すると、商売がら色々の画家達
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