上手は街道、下手は海、中央は雑草の生えた砂丘が起伏して下手奥の波打際に開いてゐる。街道に添つて、既に店の人の引上げてしまつたヨシズ張りの茶店の一部が見える。時々ザーザブンと低く響いて来る波の音。
五郎が先刻のまゝの姿で、腕組みをして砂丘の下にあぐらをかいて坐つてゐる。少し離れて長髪に上衣を脱いでシヤツにズボンだけの尾崎が、右手にビールのコツプを持つたまゝ立つて、砂丘の中腹に置かれたスケツチ箱の上の、描きかけのスケツチ板をためつすがめつ眺めてゐる。スケツチ箱の傍には飲み倒されたビール瓶が五六本と、食ひかけのイナリずしの包みなど。それまで五郎と共にビールを飲み、話しながらスケツチをしてゐたらしい。此の男は、金貸しが本業だが、画商みたいな事もやり、暇があれはムキになつて画を描かうと言ふ男で、金貸しと言ふ商売柄から来るズルイ所は時々覗くけれど、全体の人柄に稍々とぼけた様な愛嬌があり、もともと好人物なのであらう。とにかく、坊主頭にしてギリギリに疲れ切つて、特に今イライラときびしい顔付になつてゐる五郎と並べて見ると、尾崎の方がよほど本物の洋画家らしい。
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尾崎 ……こ
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