さんはいつとき、あつちへ行つてて頂戴!
五郎 ば……(と箸を持つた手でゲンコを作つて、美緒の顔を今にも殴らんばかりに構へる)黙れ! 黙つて食へ、馬鹿! (尚も母を睨まうとする美緒の顔を、手ではさむやうにして自分の方へ向かせる)
母親 なんですよ? ……やつぱり、なんですねえ、病気になると神経が強くなるからねえ。よつぽど気を付けないとねえ……。お医者は近頃なんて言ふの? やつぱりなんぢやないかね、いくら大学病院は有ると言つたつて、やつぱり田舎の大学ですからねえ。東京のお医者に代へた方がよくは無いかしらねえ。……とにかく、こんど良くなつたら、生活が苦しいのに散々無理をして託児所をやつたりするなんてえ物好きはフツツリよすんだね。お前が病気になつたのも、もともとそのセヰなんだから――。
五郎 (美緒にそれを聞かせまいとして)もつと噛むんだよ! 今のは足りなかつた。今度は卵だ。さあ、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二、……(続ける)
母親 アツハハハ、卵を噛むのを勘定してやるんですか、まあねえ、ハハ。
美緒 ……(既に自分でも母親に気をとられまいと、歯を食ひしばるやうにして五郎の
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