眼ばかり見て噛みつゞける)
小母 (縁側へ出て来て)……あのう、五郎はん、お客さんどす。(玄関の方を指す。なるほど人影が一つ立つてゐる)
五郎 え? 誰です?
小母 あのう、東京の尾崎さんどすけど。……あがつて貰ひまつか。
五郎 尾崎君。さうか。えゝと……(少し混乱して、考へてゐる)いや、僕がそちらへ行きますから。……さうだな、(玄関へ向つて大きな声で)尾崎さん、やうこそ……此処ぢや汚なくつてなんだから、失敬だけど、海岸の茶店へ行かうか。チヨツト待つてて呉れ。
美緒 金の事でせう? 此処で話して下すつていゝわよ。私、平気。
五郎 なに、いゝんだ。いづれ奴さんの事だ、ビールでも飲むんだらうから、どつちせ、海岸の方がいゝ。……ぢや、沢山食べろ、いゝか。口を利いたらいかん。(心得て庭に下りて来て食膳を受取つた小母の耳元に)小母さん、直ぐに戻つて来ますから頼みます。美緒に口を利かせちや駄目ですよ、いゝですね。
小母 ハツハハ、あても、喋くりはしませんさけ、大丈夫どす。
母親 私が食べさせてやらうかね。(言ふだけで、離れた所に立つたまゝ、手出しはおろか、近寄らうともしない)
美緒 いゝの。小母さ
前へ
次へ
全193ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング