ひますから、なんですよ、とにかく、美緒が飯を食つちまつて、それから、(美緒に)今度は豚とタマネギだ、うまいぜ。これが先刻のべつぴんの一件さ。アハハ。どうしたい?
美緒 ……(毒々しいやうな眼付きで、母親の方を睨んでゐる)
恵子 ……私達、海岸を歩いて来ようかな。(此の場の空気を取りつくらはうとして立上る)
母親 (鈍感のために他の三人の気持がわからず、却つて皆の調子が変になつたのにキヨトンとして見廻して)どうしたんですよ? 私はたゞ――。
美緒 (眼は母をまだ見詰めながら言葉は妹に)えゝ、さうなさいよ。海岸の方なら、病気が伝染る事は絶対になくつてよ。(神経的に二つ三つクツクツと笑ふ)
恵子 直ぐそんな風に取るのね、姉さん。ひどいわ!
五郎 美緒! (と妻のブルブル動いてゐる左手をグツと圧[#「圧」に「ママ」の注記]へつけて)さ、食へ、うまいぞ。(箸に食物をはさんでやる)
美緒 ……(まだクスクス笑ひながら)ビツコのタマネギね? フ、フ、私もビツコになつたら、どうしよう? (食べる)
母親 ビツコのタマネギとは何の事ですかね?
美緒 (終《つい》にこらへ切れず、低いが鋭い声で)母さん、母
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