ガーンと頭をやつつける事があるのよ。フフ。
恵子 だつてそりや、姉さんを大事にしてゐるからぢや無いの?
美緒 ……だつて、真青になつて怒鳴るわよ。
恵子 私なんか、そんなの、うらやましいな。津村なんか何か気に入らない事が有つても、私の事と言ふとニヤニヤニヤニヤしてゐるの、きらひ。五郎さんは画の方の仕事だつて犠牲にしちやつて、かうして姉さんの看病に没頭してゐるんだもの。偉いと思ふわ。さうぢやなくつて? 姉さんは仕合せだわ。こんな――。
美緒 ……(安つぽくベラベラと自分と五郎の事が喋られるのに次第に腹が立つて来て、イライラして来る。イライラしはじめると、彼女はその白い美しい両手の指をチラチラ動かしてハンカチや毛布や着物の襟など、手の届く物を取つたり離したりするのである。……妹の言葉を遮つて、いきなり別の事を言ひはじめる)そいで、今日はお揃ひで、どんな用事で来たの?
恵子 え、用事?……まあ。勿論お見舞ひだわ。母さんが来ると言ふから、私も暫くごぶさたしてゐたし、そいで――。
美緒 さう。……(母に)母さん、国の方の不動産の事でせう?
母親 えゝまあ、それも有つたけど。……利男が何か言つたの
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