えず、盆を突き付けながら、恵子の姿を眺めまはして)へえ! いつもキレイにしてゐやはりますなあ。
恵子 (盆を避けながら)ありがたう。いゝえ、いゝんですの。たくさん。
美緒 ……(ニコニコしながら)恵ちやん、その茶椀は煮立てゝ消毒してあるから大丈夫よ。おあがんなさい。
五郎 (少しギヨツとして)美緒、お前……何を言ふんだ。
恵子 (バツが悪くて)いえ、そんな積もりぢや無いのよ。タバコ吸つてゐるから。……ぢやいたゞくわ。(と茶椀を取つて暫く持つてゐるが、結局飲まないで話の間に縁に置いてしまふ)……久我さん、画は描いてゐらつしやるの? ソロソロ、展覧会のシーズンですわね?
五郎 え? あゝ、いや、あまり描きませんね。
恵子 さうね、これぢや描けないでせうね。惜しいわ、あなた程の人を。
母親 (室から出て来て、庭におりる。五郎立つて黙つてお辞儀をする)……オヤ、オヤ、まあ、利男は姉さん具合が悪いやうだなんて言つてゐたけど、何を言ふんだらうねえ、まあ。血色も良いし、なんだか此の前よりも太つたやうぢやないか。さうでせう、五郎さん? (恵子と同様に、美緒の傍へは寄りつかうとしない)
五郎 えゝ、いや
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