ようおこしやす。(母親も何か言つてゐるが此処からハツキリ聞えない)
恵子 すばらしい食堂ぢやないの。これならウンと食べられるでせう。(シガレツトを取出してセカセカと吹かす。此の女は肺病の伝染を極度に恐れるために、此処に滅多に見舞ひに来ないし、稀れにやつてきても家の中へはあがらうとせず、姉からズツと離れて庭先に掛けて欲しくも無い煙草を引つきりなしにスパスパとふかしてゐる。今もそれである。美緒も五郎もそれに気付いてゐるので強ひてあがれとすゝめもしない。美緒は肉身の者達からこんな風に扱はれる事には馴れてしまつて、一々反感を感ずる事は無くなり、たゞ遠い所に住んでゐる人を見るやうな冷静な無関心な微笑を浮べて黙つてゐるばかりである。五郎の方は、それに気付いて不快に思ひつゝ、しかしその不快さを表に出すとそれが美緒に反射して苦しませる事を恐れて、複雑に気を使つてゐる)
五郎 先日は利ちやんにあんなに沢山バタをことづけて下さつて、すみませんでした。ズーツとあれで間に合つてゐますよ。此処ぢや、あんな良い奴は手に入りません。(美緒に養つてやりながら)
恵子 どういたしまして。雪印と言ふのが近頃みんな外国へ行
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