。……聞いてると、とてもいゝ気持よ。
五郎 ぢや、後で読んでやる。……万葉こそは俺達の故郷だと言ふ気がするな。……どうだ寝てる間に全部あげて、病気が治つた時は万葉学者になつちまうか? ハハ、ところが、その歌の解釈が全部まちがつてゐたつてね。なあに、それでもいゝんだよ。古典には色々の解釈が有つていゝわけさ、ハハハハ。
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玄関の奥(入口)に二個の人影が立ち、その中の一人はズカズカあがつて来る。これは美緒の母親で、大変上品で立派な顔形と、それと激しい対照をなすひどく粗野な表情動作を持つてゐる。他の一人は、あがらないで、一度下手奥へ消へて、下手から庭伝ひに出て来る。母に従つて東京から見舞ひに来た美緒の妹の恵子。母親にも姉にも似ない線の鋭い尖つた顔を、ドーラン化粧で塗り上げ、よく伸びた身体に表現派模様を藍で染め上げた着物に草履。
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恵子 (姉夫婦から少し離れた所に立つて)……やつて来たわ姉さん。どう、具合は? (美緒はニツコリしてうなづいて見せる)
五郎 やあ、いらつしやい。遠い所を、どうも――
小母 (居間で母親と挨拶を交してゐる)これは、これは
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