何だか考へるたんびに、怖くなつて、私、身内が顫へ出して来るわ。
五郎 ……お前も戦争をしてゐるんだ。お前もぢやなくつて、お前が戦争してゐるんだ。他人の事ぢやない。顫へ出すなんかと言つて、自分だけは病人だから責任は負はないでいゝなどと思つてゐると大変な量見違ひだぞ。まして、食物を噛むのがいやだなんて、怪しからんよ。クソになつたつて石になつたつてなんだい。……さ、食べよう。(再び食物をスプーンで養つてやりはじめる)
美緒 ……(黙つて噛みながら涙ぐんでゐる)
五郎 (それを、わざと無視して)……そら、ホーレン草。……あゝ、この土曜に目黒診療所の比企さんがやつて来るさうだよ。今朝手紙が来た。……日曜には赤井達が来るし、利男君も来るだらうし、賑やかになる。
美緒 ……比企先生?……さう?
五郎 なんでそんな変な顔をするんだ? いやか?
美緒 うゝん。だけど……あんた手紙を出したの?
五郎 うん、こないだ。あんまり御無沙汰してゐたからね。
美緒 ……私の身体、又、そんなに悪くなつた?
五郎 なんだい? なにを言つてゐるんだ! 俺が来てくれと言つてやつたわけぢや無いぜ。向うで避暑に来たいと言ふんだ
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