になる。それを又引掴んで、散々骨を折つて、ねぢ込むやうにして空鑵に入れる)
小母 ……(飛び退いて、息を呑んで五郎の悪戦苦闘を見守つてゐたが、うまく鑵にとぢ込められたので稍々ホツとして、額の油汗を拭いてゐる)へえ!
五郎 ……(鑵のフタを押へ、歯を喰ひしばつて肩で息をしてゐる)
小母 ……(その五郎を見てゐる内に急に泣き出す。声が出ると病人に聞えさうなので、手で口を押へながら、慟哭)
五郎 ……(便所の手洗場の下に転がつてゐるかなり大きな石を、フタの上に載せて、鑵を縁の下に押入れる。やつとホツとし、小母さんを顧みて、しばらくボンヤリ立つてゐる。小母さんは、まだ泣いてゐる)
美緒 (病室の障子の中から、低い低い声)……どうしたの?……あなた……どうしたの?
五郎 (その声で我れに返つて)おい。……(メチヤメチヤになつたカンバスをポイと湯殿の中に投げ込んで置いて、病室の前へ歩いて行き、そこの藤棚の柱に両手のよごれをこすり附け、手の匂ひをかいだりしながら、縁にあがる。障子を開けて)……なんだ?
美緒 ……どうしたの? ……今の音?
五郎 ……なんでも無い。猫が台所に飛び込んだ。ハハ。
[#こ
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