ツクスの事を考へるのが、変な事があるもんか! 今のお前がそこまで考へられるのは大した事だよ。その調子だ! いや、行くよ行くよ、なあんだ、行くよ。(心から嬉しさうである。口笛を吹かんばかりにして、カンバスを取り上げ、障子を閉めてから湯殿の方へ行く。笑ひながら、湯殿の戸をガタピシ開ける)
小母さんの声 (裏口の辺から)ワツ! アレ、アレツ!
五郎 ……(その声でハツと何事かに気附き、カンバスを縁側に置いたまゝ庭に下りて、裏口の方へ走つて行く。……間。裏口の辺で五郎と小母さんが何かガタガタしてゐる物音。小母さんのアツ! アツ! と言う声が切れ切れに洩れて来る。……やがて五郎が汗を流しながら大型のビスケツトの空鑵を抱へ、便所の角の所に現れる)……開けて見たりするからいけないんですよ!
小母 (真青なおびえた顔でついて来て、眼を据ゑて空鑵ばかり見てゐる)……なにや知らん思うて、ヒヨツと開けたら、ホンマにわては! なんと、まあ!……そいぢや写生しいに出かけはる時に、その鑵持つて行かはるの、なんでかいなと思てゐたら……。
五郎 (空鑵のフタをグイグイとしめながらうなづく)……。
小母 ほんで、それ、
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