チヤラだから、時々はあなたホントの絵を描いてよ。
五郎 又はじめた。……子供の絵はホントの絵ぢやないのか? ……そりや、描けば金になるから俺あ描いてゐる。それでいゝぢや無いか。……しかしそれだけぢや無い、美しい絵を描いてそれが絵本になれば、日本中の子供がそれを見るよ。……金儲けだからヤツツケ仕事をする気は無いんだ。又、そんな事は俺にはとても出来ない事はお前も知つてゐる筈だ。俺あこれでも本気で描いてゐるんだ。
美緒 ……知つてるわ。だけど……だから、ホンの一月に一枚でもいゝから、油で制作をして欲しいの。
五郎 ……純粋絵画の価値に就て、俺あ疑ひを持ちはじめてゐるから駄目だね。美とは全体なんだい? ……描けば描けるよ。しかしそいつを、誰が何処で見るんだい? 詰らんよ。そんな時代ぢや無い。
美緒 ……うん……だけど、私が見たいのよ。あなたがコツテリと油で描いた風景かなんかを、私が見たいの。それならいゝでしよ。
五郎 お前が見たいんなら描く。その内に描いてやらあ。……だが、お前の言つてゐるのは嘘だ。俺に制作をさせたいために、わざとそんな事を言つてゐるんだ。
美緒 ……だつて、あなたは、天才だと
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