一分間の休憩、チエツ、まけてやらあ……(言葉とは反対に眼はジツト注意して病人の様子を見てゐる……間)
美緒 ……(少し楽になつて)いやんなつちやうな。
五郎 なにが?
美緒 だつてさ、あんまり噛んでると、食べ物みんな、口ん中でうんこになつてしまやしないかな。
五郎 バ、バ、馬鹿な! 馬鹿を言ふな。
美緒 でもヒヨツとそんな気がする事があつてよ。口ん中が黄色くなるやうな気がするの。そしたらもう駄目。
五郎 さう言へば、小さい時そんな話を聞いた様な気がする。或る所に馬鹿がゐたが、それが食事のたびにシキリと何か考へ込んでゐる。その内に時々ヒヨイと居なくなるから、どうするかと思つて付いて行つて見たら、椀のメシを便所へ持つて行つてほ[#「ほ」に「ママ」の注記]うり込んでゐるんださうだ。……どうせしまひにはさうなるんだから、食べて身体を通すだけ無駄な手間だと言ふんださうだ。……お前も段々その馬鹿に似て来たわけだ。
美緒 えゝ、どうせ私は馬鹿よ。……だからかうして、あなたの仕事を一寸きざみに食ひつぶしてゐるんだわ。
五郎 なんの話だい?
美緒 ……あのね。……私、こんなに御馳走を食べなくつたつてヘイ
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