ぱり君の手当の仕方がよかつたからだらうと思ふ。それは大した事だ。医者として僕はそれを認めるよ。……でも、もう多分、駄目だ。医学的には、もう殆んど……と言ふよりも九十九パーセント、いや百パーセント見込みは無い。患者は平静なやうだが、もう多分半月、永くて廿日間……、もし腸に出血があればこの四五日中にも或ひは――。何か聞いて置きたい事があれば今の中に聞いとくんだな。会はせなければならん人にも出来るだけ早く――。……僕の言ふ事は、これだけだ。
五郎 ……(坐つたまゝ石にでもなつた様に動かない)
比企 今後も僕に出来る事があつたら、医者として、いくらでも助力するから、そう言つてくれたまへ。……ぢや僕は寒いからチヨツト宿に帰るよ。なんなら君も後でやつて来ないか。……(スタスタと歩み去つて行く)
[#ここから2字下げ]
 後では五郎が石の様に坐つたまゝ。
 永い間。……
 白い街道を上手からフラリフラリと歩いて来る変な男がある。汚れた和服を着たボンヤリした四十過ぎの男で、酒に酔つてゐるらしいが、陽気な所は全然なくて、寝呆けたやうな白い顔をしてゐる。片手に二合びんを下げてゐる。それが何処へ向つて行くと
前へ 次へ
全193ページ中152ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング