ミジミと空に見入る)
五郎 (近くの椅子代りの石油箱を引きずつて来て腰をかけながら)あんまり仰向くとクシヤミが出るぞ。(小母さんが縁側から運んで来た膳を自分の膝の上に受取る)……今日は僕が食はせますから、小母さん先きにやつて下さい。
小母 でも、あんたはん、お疲れどす。
五郎 なあに、小母さんこそ腹が減つたでせう。僕あ、まだあんまり空かんから。ユツクリ食べて下さい。
小母 さうどすか? ぢやま、お先きにいたゞきま。又、喧嘩せんやうに、仲良う、ターンとおあがりやす。(笑ひながら台所へ去る)
五郎 寒くは無いか? もう少しくるんでやらうか?
美緒 ……なんて良い人でせうね、小母さんは。
五郎 良過ぎる。……だから、あゝして不仕合せだ。(食物をスプーンや箸で美緒の口へ持つて行つて養つてやりながら)
美緒 (食物をユツクリ噛みながら)私はさうは思はないわ。小母さんは結局、一番幸福な人よ。
五郎 ……お前をシンから好いてくれてゐるんだね。こないだ、お前のタンが詰つた時、いきなり口をつけて吸ひ出してくれたにや驚いた。伝染するなんてまるで考へてゐない。ありがたいけど少しありがた迷惑だ。止めようと思つ
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