事は知つてゐるだらう?
美緒 ……(うなづきながら、手拭を持つた手を伸して、立つてゐる五郎の首や胸の汗を拭いてゐる)
五郎 小母さんはお前の気を浮き立たせようと思つて面白い事を喋つて呉れてゐるんだ。それはわかる。小母さんは良い人だ。しかし、蛇の黒焼が一番どつせなぞと言ふ人だもの、科学的には全然無智なんだよ。そこはハツキリ区別してゐないといけない。お前までが小母さんの調子に乗つて安静を破る法は無いんだ。
美緒 ……(クスクス笑ひ出す)
五郎 なんだ!
美緒 ……(五郎のヘソの辺を指す。そこにはポスターカラアのとばつちりがコテコテくつついてゐる)
五郎 (うつむいて見て、苦笑)フフ、今日は少し能率を上げたからな。五枚描いた。好文堂の金庫から一金拾円がとこチヨロマカした次第だ。
美緒 でも湯殿は暑いでしよ?
五郎 なに、あれで丁度いゝんだよ。うん気で以てカーツと頭へ来た所で描きまくる。
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そこへ、今度は居間を通つて小母さんが用意の出来た大型の膳を運んで来る。
[#ここで字下げ終わり]
小母 へい、御馳走どすえ! そこであがりまつか、庭へ出まつか?
五郎 こりや甘味さうだ
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