のどす。私だけが、兵隊さんの噂をしてゐたのどすえ。
五郎 (美緒に)チヨツト油断をしてゐると直ぐにベラベラやり出してゐる。食事前の時間は、喋つてはいけないと、あれだけ言つてゐるのが解らんのか。
美緒 ……(手真似で喋りはしなかつたと打消しながら、子供が叱られたやうに眼をオドオドさせてゐる)
小母 ホンマに、お喋りをして居たのは私だけどすえ。
五郎 (しきりに弁解してゐる小母さんの右手で鮮魚がブラブラしてゐるのを見て)どうしたんです、それ?
小母 生きのえゝ魚どすやろ? 魚屋の若いしから買うたのです。お嫁さんと引つ代へこにな。
五郎 お嫁さん?
小母 ハツハハ。ほい、しもた! 御飯の支度がしつぱなしや! (ごまかして小走りに台所へ去る)
五郎 (それを見送つてゐたが)……ホントに俺の言ふ事を聞かないと、張り倒すよ。
美緒 だつて私、そんなに話はしないんだもの……。
五郎 (遮つて)返事はしなくつていゝ。嘘をつけ。たつた今笑つてゐたぢやないか!
美緒 だつて――。
五郎 返事はしないでいゝと言つたら、馬鹿め。……今お前にとつて食慾と咽喉をチヤンとした状態で保つと言ふ事がどんなに大切かと言ふ
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